「妻を帽子とまちがえた男」 オリヴァー・サックス ― 2010年07月03日

表題だけではどんな内容の本だかわからない(^_^;)
著者は脳神経科医、というより、映画「レナードの朝」の原作者と言った方が知っている人が多いだろう(私も)。
「レナードの朝」は、30年間昏睡状態にあった患者が、新薬の投与によって意識を取り戻した様を描くノンフィクションであるが、本書も数々の脳損傷者の症例を巧みな筆致で描き出したものである。
眼は見えていても何を見ているか認識できない患者は、帽子を取ろうとして妻の頭を掴んでしまう。数秒間しか記憶を保持できない患者は、話している間に相手が誰か分からなくなってしまい、勝手に「物語」を作ってつじつまを合わせてしまう。
これらの奇妙な症例を読むと、「人間で不思議だなあ」と最初は興味本位で読んでしまう。しかし、読み進めていくうちに、失われたものと残されたもの、あるいは失われた部分があるから見えてくる部分、などにスポットライトが当たってくる。病気の症状で現れる、過去の追憶と郷愁、恍惚感。治療を拒否する患者。
「人間性ってなんだろう?」「人間の価値ってなんだろう?」などとガラにもなく考え込んでしまう。
原著は1985年であるが、すでに古典と言ってよいのではないかと思う。
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2009年7月10日発行 880円+税)
著者は脳神経科医、というより、映画「レナードの朝」の原作者と言った方が知っている人が多いだろう(私も)。
「レナードの朝」は、30年間昏睡状態にあった患者が、新薬の投与によって意識を取り戻した様を描くノンフィクションであるが、本書も数々の脳損傷者の症例を巧みな筆致で描き出したものである。
眼は見えていても何を見ているか認識できない患者は、帽子を取ろうとして妻の頭を掴んでしまう。数秒間しか記憶を保持できない患者は、話している間に相手が誰か分からなくなってしまい、勝手に「物語」を作ってつじつまを合わせてしまう。
これらの奇妙な症例を読むと、「人間で不思議だなあ」と最初は興味本位で読んでしまう。しかし、読み進めていくうちに、失われたものと残されたもの、あるいは失われた部分があるから見えてくる部分、などにスポットライトが当たってくる。病気の症状で現れる、過去の追憶と郷愁、恍惚感。治療を拒否する患者。
「人間性ってなんだろう?」「人間の価値ってなんだろう?」などとガラにもなく考え込んでしまう。
原著は1985年であるが、すでに古典と言ってよいのではないかと思う。
(ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2009年7月10日発行 880円+税)
「銀狼王」 熊谷 達也 ― 2010年07月09日

明治の北海道を舞台にした、初老の漁師と巨大な狼との戦い。
全体に淡々とした描写がリアルだが、一番生き生きしてるのが猟犬「疾風」。準主人公の銀狼より描き込まれてるよなぁ・・・。
ひょっとすると作者は、銀狼の擬人的表現を避けることで、「ジョーズ」のサメみたいな迫力を出そうとしたのかな・・・。
子どもの頃に読んだ本て、すごく印象に残っているものだけれど、本書を読んでいる間、ずっと頭から離れなかったのが「シートン動物記」。
狼王ロボだっけ?似てる・・・よね。
(集英社 2010年6月30日発行 1400円+税)
全体に淡々とした描写がリアルだが、一番生き生きしてるのが猟犬「疾風」。準主人公の銀狼より描き込まれてるよなぁ・・・。
ひょっとすると作者は、銀狼の擬人的表現を避けることで、「ジョーズ」のサメみたいな迫力を出そうとしたのかな・・・。
子どもの頃に読んだ本て、すごく印象に残っているものだけれど、本書を読んでいる間、ずっと頭から離れなかったのが「シートン動物記」。
狼王ロボだっけ?似てる・・・よね。
(集英社 2010年6月30日発行 1400円+税)
「ウソの歴史博物館」 アレックス・バーザ ― 2010年07月09日

読みかけて中断していた本。
私の好きな雑学系だし、内容も歴史上のウソ、ペテン、ホラなので興味はあったはず。何で中断してたかって言うと、表紙が悪い。
有名な、ビルに突っ込む旅客機に気がつかずに撮った記念写真が額縁に入っている表紙。何となく、この手の悪ふざけが一杯載ってるのかと思って読み始めたら、マジメな歴史的記述が続いたので放り出しちゃったんだね。
今回読んでみたら、おもしろかった。
中世におけるホラ話の位置づけから、西洋のホラ話文化?の伝統に話は及ぶ。そういう歴史を踏まえないと、新聞に平気でホラ話を掲載しちゃう神経は理解できない。
元々は著者の運営するブログからできた本なので、一つ一つのエピソードの記述は割とあっさりしてる。それでもツボは押さえてるので楽しめます。
あ、個人的には昔から不思議に思っていた巨大猫を抱いている写真のナゾ解きが読めて、スッキリしました。
(文春文庫 2006年7月10日発行 657円+税)
私の好きな雑学系だし、内容も歴史上のウソ、ペテン、ホラなので興味はあったはず。何で中断してたかって言うと、表紙が悪い。
有名な、ビルに突っ込む旅客機に気がつかずに撮った記念写真が額縁に入っている表紙。何となく、この手の悪ふざけが一杯載ってるのかと思って読み始めたら、マジメな歴史的記述が続いたので放り出しちゃったんだね。
今回読んでみたら、おもしろかった。
中世におけるホラ話の位置づけから、西洋のホラ話文化?の伝統に話は及ぶ。そういう歴史を踏まえないと、新聞に平気でホラ話を掲載しちゃう神経は理解できない。
元々は著者の運営するブログからできた本なので、一つ一つのエピソードの記述は割とあっさりしてる。それでもツボは押さえてるので楽しめます。
あ、個人的には昔から不思議に思っていた巨大猫を抱いている写真のナゾ解きが読めて、スッキリしました。
(文春文庫 2006年7月10日発行 657円+税)
「おれのおばさん」 佐川 光晴 ― 2010年07月09日

父が会社の金に手を付けて愛人に貢いだことが発覚し逮捕。
主人公は、せっかく入った名門中学は退学し、家を売って北海道に住む伯母が経営する児童養護施設に暮らすことになる。
全然暗くない。
いろんな人がいて、いろんな事が起こり、みんなこうやって生きていくんだなあ、って納得。中学3年の主人公の視点で語られているが、中学生らしい揺れもなければ思いこみも無い。どっちかって言うと三人称の記述に近い。
ワタクシ的に嬉しいのは根っからの悪人は出てこないし、取り返しのつかない悲劇も起こらないこと。それから、人は変われるってこと。
中学生が変わるのは当たり前だけれど、大人も変われるんだって思わせてくれるんだ。それぞれの環境や出来事に応じて。
全体に淡々とした描写の中に、しっかりと読み応えのあるストーリーが展開されていきます。
養護施設の子どもたちは高校に進学しなければ退所しなければならない、とか豚の解体場面とか、ずいぶん調べたんだろうなあ。
おすすめです。
(集英社 2010年6月10日発行 1200円+税)
主人公は、せっかく入った名門中学は退学し、家を売って北海道に住む伯母が経営する児童養護施設に暮らすことになる。
全然暗くない。
いろんな人がいて、いろんな事が起こり、みんなこうやって生きていくんだなあ、って納得。中学3年の主人公の視点で語られているが、中学生らしい揺れもなければ思いこみも無い。どっちかって言うと三人称の記述に近い。
ワタクシ的に嬉しいのは根っからの悪人は出てこないし、取り返しのつかない悲劇も起こらないこと。それから、人は変われるってこと。
中学生が変わるのは当たり前だけれど、大人も変われるんだって思わせてくれるんだ。それぞれの環境や出来事に応じて。
全体に淡々とした描写の中に、しっかりと読み応えのあるストーリーが展開されていきます。
養護施設の子どもたちは高校に進学しなければ退所しなければならない、とか豚の解体場面とか、ずいぶん調べたんだろうなあ。
おすすめです。
(集英社 2010年6月10日発行 1200円+税)
「ジーン・ワルツ」 海堂 尊 ― 2010年07月11日

「チーム・バチスタの栄光」で、「デビュー作にしてこの完成度!天才!」と日本中の度肝を抜いた海堂尊であるが、読者というモノはワガママなもので、同じレベルでは満足せず「マンネリ」などと勝手なことをほざいていたワケです。
そこで、この「ジーン・ワルツ」
やられました。参りました。
帝華大学産婦人科学教室の曾根崎理恵はを主人公に、この国の産婦人科の状況を告発するっていうことがこの作品の下敷きになっています。著者の作品は、いつも現実世界へのメッセージが強烈に込められています。
しかしこの作品の魅力は、登場人物それぞれの造形による所が大きい。「冷徹な魔女(クール・ウィッチ)」曾根崎理恵、末期癌の三枝茉莉亜院長、5人の妊婦たち。それぞれの生き方、それぞれの決断が胸を打つ。
私は喫茶店で読んでいたのですが、涙をこらえるのに苦労しました。
話は変わるけど、どうして海堂先生はロジカル・モンスター(クール・ウィッチもそうだよね)や頑固者を描写すると生き生きするのかね。きっと先生御自身がロジカル・モンスターで頑固者なんじゃないかと想像しちゃいますが・・・。
(新潮文庫 2010年7月1日発行 476円+税)
そこで、この「ジーン・ワルツ」
やられました。参りました。
帝華大学産婦人科学教室の曾根崎理恵はを主人公に、この国の産婦人科の状況を告発するっていうことがこの作品の下敷きになっています。著者の作品は、いつも現実世界へのメッセージが強烈に込められています。
しかしこの作品の魅力は、登場人物それぞれの造形による所が大きい。「冷徹な魔女(クール・ウィッチ)」曾根崎理恵、末期癌の三枝茉莉亜院長、5人の妊婦たち。それぞれの生き方、それぞれの決断が胸を打つ。
私は喫茶店で読んでいたのですが、涙をこらえるのに苦労しました。
話は変わるけど、どうして海堂先生はロジカル・モンスター(クール・ウィッチもそうだよね)や頑固者を描写すると生き生きするのかね。きっと先生御自身がロジカル・モンスターで頑固者なんじゃないかと想像しちゃいますが・・・。
(新潮文庫 2010年7月1日発行 476円+税)
最近のコメント