「殿様の通信簿」 磯田 道史2011年01月28日 03時34分

昨年度ベストワンの「武士の家計簿」の著者が書いた本だ。

学者は細かい事実を積み重ねて、確実と思われることを書く。小説家は面白い物語を綴る。では、古文書から事実を拾い上げて、これほど面白く記述する著者の才能はなんなんだ。

元禄の頃の「土芥寇讎記」という文書がある。「どかいこうしゅうき」と読むらしい。各大名の性格や暮らしぶりを書いたもので、隠密が集めた情報をまとめた秘密文書、という説もあるとのこと。
著者は、こういう文献などを駆使して、よく知られた歴史上の人物の実像に迫っていく。浅野内匠頭と大石内蔵助、加賀の前田家のお殿様、などなど。
それぞれの人物の性格や生きていた時代の気風、それらを実例を挙げながら丁寧に描写していく。それらは、予想外でありながら、説得力がある。

全体の統一感がないということが欠点と言えば欠点だが、いくつもの読み物を集めた、と思えば逆に読みやすい。そういえば、表紙裏の紹介文には「歴史エッセイ」と書かれている。

「武士の家計簿」同様、読んで損のないお薦め本である。

(新潮文庫 2011年1月25日発行 476円+税) アマゾンへのリンク

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_ 日々の書付 - 2011年01月28日 08時44分

「武士の家計簿」からすっかり磯田先生のファンになり、現在先生の著作を漁っているとろです。今回読んだのは「殿様の通信簿」。面白いタイトルですが、元ネタは実際に江戸時代に書かれた殿様の行状を記した古文書で、なんと隠密(!)が調査した極秘資料なのだそうです。「殿様の通信簿」には殿様の性格や、その行状、領地の内情まで詳しく書かれています。なんてったって隠密がしらべたのですから、その信ぴょう性は高いといえるでしょう。我々のよく知る水戸黄門や忠臣蔵の浅野内匠頭や大石内蔵助が本当はどんな人物だったのかというと…・水戸黄門(光圀)…「女色に溺れて悪所通い」 うーん、黄門様のイメージ違いますね(^^;)。ただ、磯田先生の解説によると、当時の殿様はほとんど外出の自由がなかったため、文化人や芸能者(能役者)などと知的な会話を楽しむにも格式張った手続きで屋敷に呼びつけないといけない。だから、遊郭などをサロン替わりにしていた一面もあったのだとか。黄門様は学者以上の博識だったそうですが、通信簿には「学者を知識でやりこめるのはよくない」と書かれてしまいました。・浅野内匠頭と大石内蔵助…浅野内匠頭というと忠臣蔵では、生真面目な美青年が演じてきましたが、「殿様の通信簿」によると、結構なバカ殿らしいです。(^^;)頭はいいけれど極度の女好きが高じて政務をとらず、もっぱら家老たちに任せていたのだとか。だから大石内蔵助は赤穂時代からの指導力でもって討ち入りを果たしたと。また、刃傷沙汰や討ち入りの背景についても解説されています。赤穂は戦国時代の名残を残す藩でそのプライドが高く、だから吉良をちょっと下に見ていたとか、また、内匠頭が辞世の句で「名残りを…」と詠んじゃったので、君主が絶対である当時の家臣たちは、その「名残り」をなんとかしなくちゃいけなくて討ち入りせざるを得なかった…とか、「忠臣蔵」という歴史的事件は様々な要因が重なって初めて起こったことなのですねえ。「武士の家計簿」でも書かれた、「先祖の功績によって武士の階級や役割が決まる」といった武士の構造についても触れられています。先祖が頑張りすぎちゃって危険な場所に生かされると貧乏くじを引いた家はずっとそのまま、損な役目を期待されておおせつかっちゃうのだとか。殿様の通信簿 (新潮文庫)posted with amazlet at 10.12.24磯田 道史 新潮社 売り上げランキング: 16447Amazon.co.jp で詳細を見る

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