「死刑でいいです」 池谷 孝司2010年12月04日 00時44分

2005年11月17日午前2時頃、大阪のマンションで27歳と19歳の姉妹が殺害された。犯人は、ナイフで滅多刺しにし乱暴した後、胸をひと突きしてしてとどめを刺し、さらに部屋に放火して証拠隠滅を図った。 犯人は山地悠紀夫、22歳だった。
山地は16歳のときに母親を殺した。
3年間を少年院で過ごし退院、しかし少年院での教育は次の事件を防ぐことはできなかった。少年院での医師の診断はアスペルガー症候群。裁判での鑑定は人格障害だった。
事件は山地の障害が原因だったのか、生育歴が原因だったのか。

池田小学校の児童殺傷事件の宅間守、奈良の小一女児誘拐殺人事件の小林薫、土浦市の連続殺傷事件の金川真大、そして秋葉原の無差別殺傷事件の加藤智大。
彼らは、なぜ反省の色を示さず、死刑でいいと言うのか。生まれたのが間違いだったと言うのか。

本書は、共同通信社による取材、記事が元となっている。通信社らしく、医師や弁護士に緻密に取材を積み重ねていく。やや表層的な感は否めないが、各専門家のコメントで多様性を出している。特に、発達障害者の自助グループの様子は、当事者の生の発言として示唆に富んでいる。

被害者を増やさないためにも、そして加害者を作らないためにも、社会は、私たちは何ができるのだろうか・・・。

(共同通信社 2009年9月28日発行 1400円+税)アマゾンへのリンク

「消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし」 ケンジ・ステファン・スズキ2010年12月05日 13時16分

デンマークの社会と、そこに住む人々の暮らしを綴る。デンマーク国民が自らの国をどう感じているのか、政府が保障しようとしている暮らしとはどういうものかを明らかにする。

説明がとても分かりやすい。なんといっても、著者はデンマークに40年以上住んでいる。このリアリティーはすごい。話は、みな身近な人々の例に裏打ちされている。例えば、医療費についてはこうだ。

著者のお孫さんは、心臓に欠陥がある。今まで何回も手術をしている。その中の一回は、イギリスの専門病院でないと手術ができなかった。まだ小さいから両親も付き添わなくてはならない。子どもと両親の渡航費、滞在費、その間の休業補償、すべて公費負担である。
反面、風邪などには薬も出さない。歯医者も全額自己負担である。国民全員に家庭医が登録されており、家庭医の判断がなければ高度な医療を受けられない。ちなみに、病院のほとんどは国公立である。
福祉サービスの提供者も市町村であり、さらに教会も公立なので牧師は公務員である。

日本と最も違うのは、労働事情であろう。
デンマークでは職業教育が徹底しており、小さい頃から将来の職業を考えさせる。そして、教育を受けて資格を取らないと、その仕事はできない。我々の云う事務職でも、まず「事務補佐員」という資格を取らないとどこの会社にも就職できない。あらゆる総ての仕事に資格がある。そして、同一の資格で働いている限り、どの企業でも同一賃金である。どの会社に勤めても給料は同じなのである。そして、給料を上げるためには、上の資格を取らなくてはならず、そのためには上の学校に行かなくてはならない。
すべての教育は無償であり、入学試験もない。しかし、卒業するまでには大変な努力が必要である。そういう意味ではデンマークは学歴社会である。

あまりに日本と違いすぎてクラクラする。上に書いた以外にも、たくさんの制度が紹介され、制度の成り立ちや国民の考え方が考察されている。

先日のスウェーデンの本といい、こういう本が出版されるといいうことは、日本国民が、高福祉・高負担の社会の情報をほしがっている、と出版社が判断しているっていうことなんだろうなあ。

(角川SSC新書 2010年11月25日発行 760円+税) アマゾンへのリンク

「フランス革命 歴史における劇薬」 遅塚 忠躬2010年12月16日 23時39分

最近、まじめな本が多いな・・・。

表題の通り、歴史の本です。著者の遅塚忠躬先生は、フランス革命史の第一人者と言って良い人で、惜しくも先月、お亡くなりになりました。

フランス革命には、人権宣言に見られるような理想主義的な面と、反対派の粛清に見られるような恐怖政治としての面があります。
これを、理想主義から始まった革命が、途中から暴走して恐怖政治に至った、とする見方があります。それに対して、著者は、フランス革命を一つのブロックとして捉え、その栄光と暗黒面は不可分であると見ます。
革命の原動力である民衆と、自由主義貴族の間で、新興ブルジョワジーが、どちらの勢力に接近するかで革命の方向が決まっていく。著者は、革命の二つの面は、その時々の情勢によりブルジョワジーがどちらに動いたかというダイナミックな過程の顕れとして理解します。薬の効果と副作用は、分けて考えることはできない、という訳です。

ジュニア新書でありますが、手を抜かずに、事実を積み上げて丁寧に論証していきます。私の職場の先輩も、「この本を読んで、始めてフランス革命がわかった」と言っていました。
名著、と言って良いのではないかと思います。

(岩波ジュニア新書 1997年12月22日発行 780円+税)アマゾンへのリンク
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