「完全なる首長竜の日」 乾 緑郎2012年01月30日 00時00分

第9回「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
昏睡状態の患者とコミュニケートできる技術により、主人公が入院中の弟の意識の中に入り込む。そこでは、普通に生活し弟と会話を交わすことができる。

げっ!
名作じゃん。才能のある人っているもんだな。
元々劇作家だそうだから素人ではないにしろ、これはすごい。
筆力っていうんだろうか。だんだん足下が揺らいでくるような不安定感、それと場面場面で浮かび上がってくるイメージ。
あとね、些細なことかも知れないけど、専門用語の使い方が正しいのが嬉しい。

(宝島社文庫 2012年1月27日発行 562円+税)アマゾンへのリンク

「シアター!2」 有川 浩2011年01月28日 04時00分

有川浩先生の「シアター!」の第二弾!

「シアター!」も面白かったんだけど、ここで皆さんに「読め!」と強力におすすめするほどのインパクトには欠けるものが・・・。今回、「2」でパワーアップしてオススメレベルに上がった、ということで。

前回の話は、貧乏劇団「シアターフラッグ」が存亡の危機に陥り、主宰の春川巧が兄、司から300万円の借金をするところから始まった。金を貸すに当たって、司は「2年間で、劇団の収益から300万円を返せ。できない場合は劇団を潰せ」との条件を付ける。
劇団員それぞれが、収益を上げるために四苦八苦する姿が描かれており、「2」においても基本線は変わらないがノリが数段良くなった印象。
まず、劇団員の動きが良くなった。今までは、単なる「役割」でしかなかった個々の劇団員が、個性を持った「登場人物」として動き出した。有川先生、劇団、という舞台に慣れてきたのかなあ。劇団を描くことから人間を描くことに力点が移って、「有川節」が全開になった感じ。
これで、「1」「2」を通して読んで!って自信を持って言えます!

(メディアワークス文庫 2011年1月25日発行 610円+税) アマゾンへのリンク
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「空の彼方3」 菱田 愛日2010年11月07日 23時28分

3巻で完結いたしました。ちょい残念です。
もっとダラダラと続けてほしかった。

いわゆるファンタジー系のライトノベルです。
主人公のアルフォンソは父親に反発して家を出た元貴族。ひょんなことから傭兵ギルドの一員となる。
彼が密かに思いを寄せているソラは陽の当たらない地下で防具屋を営んでいる。ソラの店で武具を買うには3つの約束を守らなくてはならない。
一つ、この街に住みこの街を帰ってくる場所と決めていること
二つ、この街に生きて帰ってくるため、最大限の努力をすること
三つ、この街に帰ってきたら店に顔を見せて、旅のできごとを話すこと。
ソラの店の壁には、旅に出た者たちの名前を記した紙片が貼られている。帰ってきて旅の出来事を語るとそれが外される。
そして、壁の一番隅には、一枚の古びた紙片が外されることなく貼られている・・・。

登場人物が、皆、厳しくも優しい。傭兵ギルドのボスのラヴィアン、騎士団に所属するマリアベル、傭兵ギルドにアルフォンスを連れてきた豪放磊落でがさつなディラン。

それぞれの想いの中で、静かに、静かに時は流れていきます。感情をほとんど表さない、それでいて真っ直ぐなソラの瞳が、全編に静謐な印象を与えています。
アルフォンスの想いは通じるのか、父との確執は・・・。

(メディアワークス文庫 2010年10月25日発行 683円+税) アマゾンへのリンク
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「永遠の0」 百田 尚樹2010年11月03日 22時14分

R40本屋さん大賞第1位だそうだ。「R40」ってなんだろう?

大学卒業後、司法試験への熱意を失いかけている主人公と姉の二人が特攻で戦死した祖父のことを尋ねに、戦友の元を尋ね歩く。
最初に尋ねた元搭乗員から、祖父のことを「海軍航空隊一の臆病者だった」と言われショックを受ける二人。しかし、その後も生き残った人たちに話を聞き続ける。
一緒に真珠湾攻撃に参加した搭乗員、ラバウルとガダルカナルで消耗戦を戦い、今、ガンで死の床に就いている老人、整備兵、元特攻隊員たち、飛行訓練生たち、祖父との空中戦を望み果たせなかったヤクザ。
一人一人の話を聞くうちに明らかになってくる祖父の素顔。そして思いも寄らなかった真実が明らかになる・・・。

ワタクシは飛行少年だったので、戦争と飛行機の話は一般の方々よりは詳しい訳です。解説の児玉さんと同様、坂井三郎さんの「大空のサムライ」は愛読いたしました。坂井さんの「生き残るための執念」は、本作品にも影響を与えていると思います。

あの戦争は何だったのだろうか。戦争の中を生きてきた人たちは何を考え、感じていたのか。戦争モノと云うことで敬遠しないで、是非読んでいただきたい。人が意志をもって生き、死ぬこと、そして運命というものを考えさせられます。

(講談社文庫 2009年7月5日発行 876円+税) アマゾンへのリンク

「なぜ絵版師に頼まなかったのか」 北森 鴻2010年11月01日 21時50分

妙ちきりんな題名である。絵版師ってなんだ?
ここで、ミステリファンならば「ハハン」と気づかなければならない。 本書に収められているのは、表題作の他「九枚目は多すぎる」、「執事たちの沈黙」など5編。そう、みな有名な作品名のもじりになっているのだ。

ときは明治13年。明治初年生まれの冬馬は身寄りを亡くし、ベルツ教授の住み込み給仕となる。そして二人は、身近に起こる奇妙な謎を解いていく。

登場人物が良い。ベルツ教授は「ベルツの湯」や「ベルツ水」で有名な実在の人物。その他にも貝塚発見で有名なボース、法学のボアソナードなどが登場する。ベルツ教授はとんでもない日本びいきで、有田焼の花瓶に日本酒を入れ、打ち掛けを部屋着にしてくつろいでいる。他の登場人物も、皆ちょっと変わっている。
中でも、旗本崩れで新聞記者から骨董屋、文士と職を転々と変え、その度に名前も変えてしまう市川歌之丞(扇翁、奇妙斎、鵬凛など)が無責任男のような頼りがいのあるイイ男のような良い味をだしている。

ただどうも、話が軽い。もうちょっと謎が重くても良い。明治の雰囲気が重くても良い。ストーリー展開が重くても良い。素材は良いのだからね。
今後に期待、と思って読んでいたのだが、解説によると著者は48歳で早世したとのこと。若いのにもったいない・・・。合掌。

(光文社文庫 2010年10月20日発行 552円+税) アマゾンへのリンク
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