「『はやぶさ』の奇跡」 的川 泰宣2010年10月11日 16時16分

「よくぞ帰ってきた」というのが正直な感想である。

姿勢制御のための3基のリアクションホイールの内2基が故障、姿勢制御用ロケット燃料も全て漏洩、地球との交信も途絶して帰還をを3年間遅らせる。3年後にはバッテリーが全て放電、4つのイオンエンジンが全て故障。
技術陣の智慧と工夫には本当に頭が下がる。
ちなみに、この画期的な高効率のイオンエンジンの推力は、2グラムだそうである。
地球と小惑星帯は3億キロ。電波でも片道16分かかる。スタッフは、往復30分のハンデを背負ってコントロールしなくてはならず、また、「はやぶさ」は、ある程度自分で状況を判断できる能力が求められる。

月以外の天体からの初のサンプルリターンとか、「はやぶさ」を応援する人たち88万人分の署名を小惑星「イトカワ」に置いてきたとか、そういうことも大事であろうが、とにかく、よくぞ帰ってきた。
技術は積み上げが大事である。この「はやぶさ」の偉業を、どう次に繋げるか。あくなきチャレンジこそ、我々の未来への投資である、と思う。

(PHP研究所 2010年10月5日発行 952円+税)
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「先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!」 小林 朋道2010年10月13日 01時28分

鳥取環境大学の先生である。

人間動物行動学の授業と称して、学生を連れ歩いて野山を駆け、動植物を観察し、(衝動的に)実験を繰り広げる。
でもね、学問なんて、自分が興味を持って楽しくやんなきゃ成果が出るわけ無いんだから。小林先生の態度はマコトに正統派であると思うのである。
先生は語らないが、本当は教授会とか図書委員会とか入学試験当番とか、よく分からないシガラミの雑用があるに違いない、と思う。
でも先生は、自分の楽しいことしか書かない。伝えたいことしか書かない。当たり前、かもしれないがマコトに立派であると思う。
先生は、韓国まで行って野生のシマリスの前に麻酔を掛けたヘビを置いてみる。大学のヤギの柵の中に網に入れたヘビを置いてみる。ネズミの調査のために登った1500mの山の中でイモリに出会う。外来魚の食物調査実習と称してブラックバスを釣り上げ食する。
自然科学者がフィールドを忘れたら話にならない。野山を駆け回る小林先生は、やっぱり正当派だ。 そして、それぞれ知的に興味のある話を我々に語ってくれるのである。
何にせよ、自分の好きなことに打ち込める人は幸せである。 そして、好きなことに打ち込んでいる人の書く本は気持ちよいのである。
私も、この本を読んで少し幸せのお裾分けを貰った気がする。
このシリーズ、残りも全部買います!

(築地書館 2008年10月10日発行 1,600円+税) アマゾンへのリンク

「先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!」他 小林 朋道2010年10月18日 01時17分

鳥取環境大学の小林先生のシリーズである。

前回「シマリス」で書いたように、残りの3冊を一気に買って一気に読みました。

「先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!」
「先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!」
「先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!」

さすがに4冊をまとめ読みするとマンネリ、という気がしなくもないけれど、どれもみな楽しく読めました。
「シマリス」と同様、小林先生は、興味の赴くままに野山を駆けめぐり、動物たちと触れ合い、実験し、考察します。
想像したとおり、色々と大学の雑事などに悩まされているようですが、それらにも負けず、センスオブワンダーに導かれて、動物の行動を明らかにしていきます。

生後10日ほどで、まだ目も開かないシマリスの子どもが、どうやって捕食者であるイタチを撃退するのか?
ヒミズ(モグラの一種)を丸呑みにしたまま死んでいたジムグリ(ヘビの一種)の体に開いていた穴の原因は?
湖の中の無人島に、なぜ牝鹿が1頭で暮らしているのか?

答えのある質問もあれば、わからない質問もあります。大切なのは、可能な限り事実を集めて、しっかり考えることだと思います。

動物の行動を人間の言葉で説明する、いわゆる擬人化による解釈は、学問の世界では避けるべきだとされています。
しかし、先生は、場合によってはタブーを恐れず、動物に感情があるかのように説明します。
これは、先生が人間の行動も動物行動学の原理で説明しようとすることと表裏の関係にあるのだと思います。例えば、火事や事故の現場「ヤジ馬」が集まるのは、動物が捕食者から一定の距離を置いて警戒的な動作や発声をする「モビング」の一種ではないかと考えます。

面白くためになる、読んで損のない本です。
全部、とは言いませんが、どれか一冊読んでみてはいかが?

あと、想像ですけど小林先生は、きっとアイザック・アシモフの科学エッセイのファンだと思うなぁ。絶対だよ。

「先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!」
(築地書館 2007年3月23日発行 1,600円+税) アマゾンへのリンク
「先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!」
(築地書館 2010年4月25日発行 1,600円+税) アマゾンへのリンク!
「先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!」
(築地書館 2009年7月15日発行 1,600円+税) アマゾンへのリンク

「女子高生=山本五十六リローデッド2」 志真 元2010年10月19日 05時39分

「架空戦記」モノっていうジャンルがある。
今までは、完全に避けて通ってたんだけど。
なぜかって言うと、「自分に都合の良い新兵器とか登場させて、アメリカをやっつけて喜ぶ小説」って思ってたからなんですが。
本書も、新兵器は登場するしアメリカをやっつけるし、という点はお約束通りなんですが、この小説のキモは、それらは全部ネットワークゲームの中の出来事、という設定になってることです。
つまり、登場人物は、小説の中の「現実世界」と「セカンドウォー・リアルというゲーム」の中を行ったり来たりする、という構造になっている。

ゲームキャラとしての戦史上の人物が登場すると同時に、小説の中の人物としてジョージ・ブッシュやチャック・イェーガーなどの実在の有名人が登場したりする(ちなみに、ゲーム中でも本人役)。また、ゲームキャラの中には、アニメや小説の登場人物が混じっていたりする。
さらには、「駆逐艦〔綾波〕も異常人気だった。理由はもはや知りたくもなかった。」などと、色々と楽しませてくれます。

ことほど左様に、キャラや構造は複雑なんですが、スラスラと読めるのは作者の力量でしょう。

この小説、スタートしたときは「女子高生=山本五十六」だったのが、3巻目から出版社が変わって、題名も「女子高生=山本五十六リローデッド」になった。どういう事情があったかは知りませんが。
(イカロス出版 2010年9月20日発行 952円+税) アマゾンへのリンク
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「女子高生=山本五十六リローデッド」アマゾンへのリンク
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