「クジラの彼」 有川 浩2010年08月08日 16時44分

またまた有川先生の作品です。 しつこい?

「海の底」や「空の中」の登場人物の6つのラブストーリー。
単なるラブストーリーとして読んでもよくできてるし、相変わらず国防ネタが笑わしてくれるし、何より、おなじみの登場人物のサイドストーリーだから一粒で何度もオイシイですよ。
でもね、読み終わってボーッとしていたら、ちょっとオソロしくなった。
・コトバは正しく使わなきゃいけない。
・コトバにしなきゃ何も通じない。
・コトバはよく考えて選ばなきゃならない。
特に男と女の間ではね。その積もりはなくても、ちゃんと考えてコトバを選ばないだけで、相手をいくらでも傷つけてしまうことがある・・・。

勉強になります(^^ゞ

(角川文庫 2010年6月25日発行 552円+税)
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「終わらざる夏」(上)(下) 浅田 次郎2010年08月12日 05時49分

終わらない夏上下の表紙
北海道のはるか北、千島列島の北端、カムチャツカ半島と向き合うように占守(しゅむしゅ)島はある。第二次世界大戦末期、この極寒の地に日本軍最強の部隊がいた。そして、昭和20年8月18日未明、ソ連軍が占守島に上陸した・・・。

45歳で召集された翻訳家の片岡、4度目の軍役となる郷土の英雄「鬼熊」軍曹、集団疎開先から脱走した譲と静代。一人一人の運命を丁寧にたどりながら、物語は最後の悲劇へと進んで行きます。

上下2巻を読み終わってまず頭に浮かんだのは「これって史実なんかしら?」という思いでした。
占守島の戦いは史実でした。あの8月15日の後に、北の果ての島で壮絶な戦いが行われたのです。

ここに、「日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか」という本があります。元駐チリ大使の色摩力夫氏の著書です。氏によると、8月14日にポツダム宣言の受諾を連合国側に申し入れ、15日に国民に伝えただけでは降伏したことにはならず、国際法上は9月2日のミズーリ号上での署名をもって降伏が成立したことになります。従って「9月2日までは、ソ連の軍事行動は不当でも不法でもない。」そうです。ですから、侵略に対し抵抗をしなかった北方領土については、国際社会は日本の主張に理解を示さないと記述しておられます。

しかし、しかし、北方領土からさらに離れた北の外れで、日本軍は必死の抵抗をしたのです。これは攻撃に対する単なる自衛なのか、それとも領土の防衛なのか・・・。
ともかく、
国際法は知らないが、9月2日以前だって降伏の交渉中なんだから、攻撃するのはズルいと思うぞ。>ソ連

8月のこの時期に、我々の父祖の生と死に思いを馳せながらじっくり取り組むのに好適な著。

(集英社 2010年7月10日発行 上下各1700円+税)
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「西巷説百物語」 京極 夏彦2010年08月16日 02時20分

最近、たくさん本を出している京極先生の新刊です。

巷説百物語の系列ですが、こちらは又市ではなく靄船(もやぶね)の林蔵が主人公で舞台は大阪です。

『怪』に掲載された6編に書き下ろしを加えて、計7つの物語が展開されます。最初の2編は、正直、ちょっとどうかなって感じでした。まあ、この辺までは、自己紹介みたいなもんだな、と。
でも、3編目からは一気に京極ワールドに突入です。
一文字屋仁蔵に持ち込まれた依頼を、林蔵をはじめ、祭文語りの文作、お龍、六道屋の柳次など、一癖もふた癖もある登場人物たちが解決していきます。ただ、どれも生半可な解決ではなく、表面に出ていた問題の、奥の奥にある本当の問題にまで手が届いてしまうのです・・・。

今までの、又市が主人公のシリーズより、人間性の恐ろしさが、ひしひしと迫る内容になっている気がします。従前のシリーズは、どちらかというと仕掛け重視だったのに比べ、人間の性(さが)というか身勝手さ、我が身可愛さが表に出てくる恐ろしさがあります。
京極先生のファンであれば当然、京極先生の本は読んだことがないという方(!)にもお勧めのできる1冊です。

(角川書店 2010年7月30日発行 1900円+税)
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「量子回廊」 大森 望・日下 三蔵 編2010年08月29日 19時13分

年刊日本SF傑作選2009年版である。

私は保守的な人間である。殊に読書に関しては。
好きな作家のモノは、読む。冒険はしない。残りの人生を考えると、つまらん本を読んでるヒマはない。

そんな私でもSFのアンソロジーは嬉しい。
古くからのSFファンなら、ジュディス・メリルの「年刊SF傑作選」のお世話にならなかった人はいないだろう。SFアンソロジーは、まさしくセンス・オブ・ワンダー。未知への扉、星くずのおもちゃ箱。
日本のSFアンソロジーは最近途絶えていたので、本シリーズの刊行は誠に慶賀の至り。嬉しい嬉しい。本巻が三集目だが、末永く続くことを祈ります。

ちなみに、僕のお気に入りは以下の2編。
無人探査機の高度機能中枢の日々の妄想?を綴った「バナナ剥きには最適の日々」(円城 塔)。

タンスの取っ手の座金が成長した少女?と肩を壊した野球少年の物語「日下兄妹」(市川春子)。これ、マンガです。

みな短篇なので、肌が合わない作品があっても我慢できます。
巻末に「第1回創元SF短編賞選考経過および選評」と「2009年の日本SF界概況」が掲載されています。本屋で新刊を漁る程度なので、SF界の全体像が見えない私には貴重な情報です。ホントに嬉しい。
唯一の欠点は、文庫版にしてこの価格ですかね。

(東京創元社 2010年7月30日発行 1300円+税)
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