「先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!」 小林 朋道2010年10月13日 01時28分

鳥取環境大学の先生である。

人間動物行動学の授業と称して、学生を連れ歩いて野山を駆け、動植物を観察し、(衝動的に)実験を繰り広げる。
でもね、学問なんて、自分が興味を持って楽しくやんなきゃ成果が出るわけ無いんだから。小林先生の態度はマコトに正統派であると思うのである。
先生は語らないが、本当は教授会とか図書委員会とか入学試験当番とか、よく分からないシガラミの雑用があるに違いない、と思う。
でも先生は、自分の楽しいことしか書かない。伝えたいことしか書かない。当たり前、かもしれないがマコトに立派であると思う。
先生は、韓国まで行って野生のシマリスの前に麻酔を掛けたヘビを置いてみる。大学のヤギの柵の中に網に入れたヘビを置いてみる。ネズミの調査のために登った1500mの山の中でイモリに出会う。外来魚の食物調査実習と称してブラックバスを釣り上げ食する。
自然科学者がフィールドを忘れたら話にならない。野山を駆け回る小林先生は、やっぱり正当派だ。 そして、それぞれ知的に興味のある話を我々に語ってくれるのである。
何にせよ、自分の好きなことに打ち込める人は幸せである。 そして、好きなことに打ち込んでいる人の書く本は気持ちよいのである。
私も、この本を読んで少し幸せのお裾分けを貰った気がする。
このシリーズ、残りも全部買います!

(築地書館 2008年10月10日発行 1,600円+税) アマゾンへのリンク

「『はやぶさ』の奇跡」 的川 泰宣2010年10月11日 16時16分

「よくぞ帰ってきた」というのが正直な感想である。

姿勢制御のための3基のリアクションホイールの内2基が故障、姿勢制御用ロケット燃料も全て漏洩、地球との交信も途絶して帰還をを3年間遅らせる。3年後にはバッテリーが全て放電、4つのイオンエンジンが全て故障。
技術陣の智慧と工夫には本当に頭が下がる。
ちなみに、この画期的な高効率のイオンエンジンの推力は、2グラムだそうである。
地球と小惑星帯は3億キロ。電波でも片道16分かかる。スタッフは、往復30分のハンデを背負ってコントロールしなくてはならず、また、「はやぶさ」は、ある程度自分で状況を判断できる能力が求められる。

月以外の天体からの初のサンプルリターンとか、「はやぶさ」を応援する人たち88万人分の署名を小惑星「イトカワ」に置いてきたとか、そういうことも大事であろうが、とにかく、よくぞ帰ってきた。
技術は積み上げが大事である。この「はやぶさ」の偉業を、どう次に繋げるか。あくなきチャレンジこそ、我々の未来への投資である、と思う。

(PHP研究所 2010年10月5日発行 952円+税)
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「武士の家計簿」 磯田 道史2010年09月25日 08時55分

歴史研究者が書いた、金沢藩のとある武士の一家の江戸時代から明治にかけての歴史である。
話は、著者が、江戸末期から明治12年までの36年分の猪山家の家計簿や書簡などを入手したことから始まる。
記録を丹念に読み解くことで、武士の一家の暮らしぶりや価値観、変転などが明らかになっていく。
ともかく、事実をコツコツと積み重ねることで全体像を明らかにする過程が素晴らしい。江戸時代の人の暮らしや考え方と言っても、我々と同じ部分もあれば予想外に異なっている部分もある。
例えば、一家の主と、召し抱えられたばかりの子どもが同じ給料だったりする。同一労働同一賃金である。年功序列こそ日本の伝統と思っている私には意外だった。
また、家計の中の義務経費、いわば武士の体面を保つための経費が異常に多い。その裏で、多額の借金をせざるを得ない状況・・・。
やがて明治維新が来て武士たちの家は、それぞれ慣れぬ商売に手を出したり不動産を購入したりしていく。その中で、新政府に仕官できた者は恵まれた生活ができる。
本書は、近々映画化されるという。予想外な気もする反面、当然だろうと云う気もする。本書には、良質の歴史小説を読むような面白さがある。
初版は2003年、このような本の存在を7年間も見逃していたことを、恥じ入るばかりである。熱烈お薦めの一冊である。
(新潮新書 2003年4月10日発行 ※現在41刷! 680円+税)
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「絵はがきにされた少年」 藤原 章生2010年09月15日 02時25分

絵はがきにされた少年表紙
題名からは中身が全く創造できないシリーズ、その2です。
(その1は「妻を帽子と間違った男」ですね(^_^;) )

数年間にわたってアフリカを取材した特派員が、色々な人から聞いた話から感じたことを書き綴ったノンフィクション、である。
全体のテーマを一言で言っちゃうと
・ありふれたイメージで物事を決めつけて見ちゃいけない。
 ってことかな。本当のことは、ひとりひとりの言葉の中にある。相手はウソをついているかも知れないけどね。
筆者はこう言う。声高に貧困解消を叫ぶ前に、まず一人のアフリカ人のことをよく理解しなさい。そうすると人を助けるということが、どれほど自分を傷つけるかが分かるから。そして、そういう経験をした者はもう声高に叫ぶことはしない・・・。
「先進国」からの食料援助についてアフリカの女性は言う。「乏しい収穫を前に、これをどうやって分けて、どうやって食べていこうかと思っているときに、ただの食糧をが来ると、もう働く気がしなくなるのです」

題名のナゾ?については読んでのお楽しみということで(^_^)

(集英社文庫 2010年8月25日発行 600円+税)
※他の方々のブログです
http://sabasaba13.exblog.jp/3544373
http://arc.txt-nifty.com/book/2006/10/post_52d2.html
http://ameblo.jp/amoru-kun/entry-10170696380.html

「笑撃! これが小人プロレスだ」 髙部 雨市2010年07月25日 13時45分

小人プロレスって見たことありますか?
私も、子どもの頃にテレビで見た記憶はあるんですが・・・。そのときは、やっぱり「見せ物」って感じでしか見られなかったなあ。
彼らが、いかに技を磨き、観客を楽しませることに真剣だったか。そんな彼らの試合がなぜTVで放映されなくなったのか。
TVに映らないものは存在しないこの時代において、誰が彼らを抹殺したのか。
差別の糾弾や言葉狩りに対する自主規制。ホンネで言えば、臭いものにフタ。見なかったことにしよう、無かったことにしよう。
その一方、彼らが体を痛めてプロレスができなくなっても、レフェリーや事務仕事として雇い続ける社長、リトル・タイガーの試合は欠かさず見て練習も付けてもらったという長与千種。当たり前に人として尊重する関係がそこにはある。

著者も、一人の生きた人間として「彼ら」を見ていたか、自らに問いながら25年間取材を続けた。そして、日本における小人プロレスは消滅した。レスラーは、皆引退し、何人かは鬼籍に入った。

小人プロレスの試合のDVDが付いてます。リトル・タイガーの試合も見てみたいなあ。
発行から3か月で3刷になってる。なぜか嬉しい。

(現代書館 2009年2月25日発行 2600円+税) アマゾンへのリンク
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