「武士の家計簿」 磯田 道史2010年09月25日 08時55分

歴史研究者が書いた、金沢藩のとある武士の一家の江戸時代から明治にかけての歴史である。
話は、著者が、江戸末期から明治12年までの36年分の猪山家の家計簿や書簡などを入手したことから始まる。
記録を丹念に読み解くことで、武士の一家の暮らしぶりや価値観、変転などが明らかになっていく。
ともかく、事実をコツコツと積み重ねることで全体像を明らかにする過程が素晴らしい。江戸時代の人の暮らしや考え方と言っても、我々と同じ部分もあれば予想外に異なっている部分もある。
例えば、一家の主と、召し抱えられたばかりの子どもが同じ給料だったりする。同一労働同一賃金である。年功序列こそ日本の伝統と思っている私には意外だった。
また、家計の中の義務経費、いわば武士の体面を保つための経費が異常に多い。その裏で、多額の借金をせざるを得ない状況・・・。
やがて明治維新が来て武士たちの家は、それぞれ慣れぬ商売に手を出したり不動産を購入したりしていく。その中で、新政府に仕官できた者は恵まれた生活ができる。
本書は、近々映画化されるという。予想外な気もする反面、当然だろうと云う気もする。本書には、良質の歴史小説を読むような面白さがある。
初版は2003年、このような本の存在を7年間も見逃していたことを、恥じ入るばかりである。熱烈お薦めの一冊である。
(新潮新書 2003年4月10日発行 ※現在41刷! 680円+税)
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