「名もなき受刑者たちへ」 本間 龍2010年11月11日 02時19分

栃木県の黒羽刑務所に服役中の体験を書いた本である。

この手の本では、元国会議員の山本譲司の「獄窓記」や「累犯障害者」が有名である。時期は異なるが、著者は山本氏と同じように、黒羽刑務所の「16工」で「用務者」として同囚の面倒を見ていた。 「16工」というのは他の囚人と一緒にできない障害者、高齢者、そして同性愛者を集めた16工場のことである。そして、「用務者」とは、囚人でありながら「計算係」、「運搬係」、「衛生」、「指導補助」などの刑務所内の運営を手伝う者のことである。

妙に明るいのである。山本氏の著書が、障害者や痴呆症の高齢者のことを描いて暗~いのに比べ、本書に描かれている服役者は妙に明るい。言っても効果がないから私語を大目に見られる(本来は御法度)、工場に行くときの服装チェックも省略。そして何より、「オカマ」たちの存在が大きい。(本書にならって「オカマ」と書く。気に障ったらゴメン)
「オカマ」たちは、作業着の裏に石けんを擦り付けて良い匂いをさせる、おねえ言葉で私語をして注意は聞かない、などがありつつ、移動の際には知的障害者や高齢者の手を引いてあげる、下の世話をする、など数々の優しさを見せる。だから、知的障害のある服役囚は「ここならみんな優しくしてくれるから、俺はここがいちばん好きなんだ」と言う。
なんとも、やりきれない。
もちろん、著者は刑務所をユートピアだなんて思っていない。刑務所では、何の積極的治療もされないこと、就職が困難で、刑務所に戻る以外に生きていく方法がないこと、などを指摘する。
衝撃なのは、「16工場」の囚人より、さらに作業ができない重度者のための「養護工場」があるということだ。
刑務所とは、本来、罪を犯した人を矯正するところである。しかし、本当に罪を犯したかどうか定かでなく、しかも、なんでここにいるのかも分からない人間を収容しておくことにどういう意味があるのだろうか。
軽いタッチで書いてあるが、本来は重い課題の書。刑務所内の一面を知りたい方のために。

(宝島SUGOI文庫 2010年11月19日発行 457円+税) アマゾンへのリンク

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