「沈没船が教える世界史」 ランドール・ササキ2011年02月19日

「水中考古学」
よく分からないながらワクワクする響きではないか。

なんか、世界中の海から沈没船を探して、うまく行けば貴重なお宝ゲット!みたいな。○○山の埋蔵金探しって言うと反射的に眉唾って思っちゃうけど、大量の金貨を積んだ沈没船探し、だと信じちゃうもんなあ。

でも、本書を読むと、フィールドが水中なだけで、陸上の考古学と同じく地道で気の長い話だということが良く分かる。遺物を見つけて引き上げちゃう、なんて下の下。沈没船を発見したら、その地域をグリッドに分けて、丁寧に遺物を回収していく。同じ品物でも、船のどの部分で発見されたかで意味が違ってくる。
遺物は保存処理をしなければならない。まず、海中で吸収された塩分を洗い流す。1982年に引き上げられたイギリスの軍艦は2010年現在、まだ脱塩処理を受けている。

著者は、沈没船はタイムカプセルだと言う。地上の遺跡と違って、沈んだ時点の生活が封印されているからだ。
沈没船の調査によって、これからどんなことが明らかになってくるか。でも、個人的には、学問的成果より、金貨がザクザク出てくる方が興味があったりしますけど・・・。

(メディアファクトリー新書 2010年1月31日発行 740円+税) アマゾンへのリンク

「写真で読む昭和史 占領下の日本」 水島 吉隆2011年02月06日

敗戦後、連合軍による占領期の日本の出来事を写真とともに記述している。

厚木飛行場のマッカーサー到着から連合軍による占領。GHQに接収された建物のリストとその写真、軍国主義者の公職追放、東京裁判と被告たち、闇市、DDTによる消毒、ゼネスト、ララ物資。
やがて冷戦となり、レッドパージ、公職追放の解除、警察予備隊の創設、朝鮮戦争。
庶民の暮らし、子供たちの表情、その時代の雰囲気をも描き出す記述。

忘れちゃいけないんだと思う。日本人全員が知っているべきだと思う。 もう一度言う。必読書である。

(日経プレミアシリーズ 2010年12月8日 870円+税) アマゾンへのリンク

「シアター!2」 有川 浩2011年01月28日

有川浩先生の「シアター!」の第二弾!

「シアター!」も面白かったんだけど、ここで皆さんに「読め!」と強力におすすめするほどのインパクトには欠けるものが・・・。今回、「2」でパワーアップしてオススメレベルに上がった、ということで。

前回の話は、貧乏劇団「シアターフラッグ」が存亡の危機に陥り、主宰の春川巧が兄、司から300万円の借金をするところから始まった。金を貸すに当たって、司は「2年間で、劇団の収益から300万円を返せ。できない場合は劇団を潰せ」との条件を付ける。
劇団員それぞれが、収益を上げるために四苦八苦する姿が描かれており、「2」においても基本線は変わらないがノリが数段良くなった印象。
まず、劇団員の動きが良くなった。今までは、単なる「役割」でしかなかった個々の劇団員が、個性を持った「登場人物」として動き出した。有川先生、劇団、という舞台に慣れてきたのかなあ。劇団を描くことから人間を描くことに力点が移って、「有川節」が全開になった感じ。
これで、「1」「2」を通して読んで!って自信を持って言えます!

(メディアワークス文庫 2011年1月25日発行 610円+税) アマゾンへのリンク
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「殿様の通信簿」 磯田 道史2011年01月28日

昨年度ベストワンの「武士の家計簿」の著者が書いた本だ。

学者は細かい事実を積み重ねて、確実と思われることを書く。小説家は面白い物語を綴る。では、古文書から事実を拾い上げて、これほど面白く記述する著者の才能はなんなんだ。

元禄の頃の「土芥寇讎記」という文書がある。「どかいこうしゅうき」と読むらしい。各大名の性格や暮らしぶりを書いたもので、隠密が集めた情報をまとめた秘密文書、という説もあるとのこと。
著者は、こういう文献などを駆使して、よく知られた歴史上の人物の実像に迫っていく。浅野内匠頭と大石内蔵助、加賀の前田家のお殿様、などなど。
それぞれの人物の性格や生きていた時代の気風、それらを実例を挙げながら丁寧に描写していく。それらは、予想外でありながら、説得力がある。

全体の統一感がないということが欠点と言えば欠点だが、いくつもの読み物を集めた、と思えば逆に読みやすい。そういえば、表紙裏の紹介文には「歴史エッセイ」と書かれている。

「武士の家計簿」同様、読んで損のないお薦め本である。

(新潮文庫 2011年1月25日発行 476円+税) アマゾンへのリンク

「愛と友情のボストン―そして、その後の十年…。」 山崎 泰広2011年01月04日

だいぶ古い本だが紹介したい。

著者は中学校を卒業後にアメリカの高校に入学する。その高校で窓から転落し、下半身が麻痺してしまう。普通だったら帰国して治療・リハビリに励むところだろうが、著者はそのままアメリカでリハビリを受け復学、ボストンカレッジに進学する。帰国後、アメリカと日本のギャップに驚き、クイッキー社の車いすの輸入販売等を行うアクセス・インターナショナルを立ち上げる。

日本だと「障害受容」とか言って、結局、受障前の生活をあきらめさせてしまう考え方が多かったと思う(個人的反省)。
著者は、たまたま日本の病院で一人の青年の障害告知の場面に接して驚く。医師は、これからできないことは山ほど言ったのに、これから出来ることは何も言わなかった。自分はアメリカの病院で、「君は何も変わっていない。やり方を変えれば良いだけ。」と言われたのに。

こう書いておいてナンだけれど、本書は障害や障害者についての本ではない。山崎青年が留学中やその後に、色々な人と出会い、関わっていく記録である。別に障害者分野に特有の話じゃない。障害をきっかけにした出会いはたくさんあるが、要は、いかに出会い、いかに関わったか、である。そこには、著者が人と出会うことを喜び、人生をエンジョイしている姿が生き生きと描かれている。

それにしても、ここまで前向きな人っているのかねえ。きっと御本人は「やりたいことをやってきただけだよ」って言うんだろうけど。乙武さんの「五体不満足」を読んだときにも感じたけど、御両親の影響って大きいんだろうなあ。「この親にしてこの子あり」っていうけど、この本を読んでもホントにそんな感じがする。

最後にまた、障害に関する話をする。
まだ障害者スポーツがマイナーだった1995年(今でもそうだけど)、ふと立ち寄ったコンビニで「アクティブジャパン」という雑誌を見つけた。障害者スポーツの専門誌で、発行はメディアワークス、発売は主婦の友社だった。写真がきれいで本当にカッコ良かった。この雑誌の編集長が山崎さんだった。
本当にパワフルな人ですね。

(文京書房 1996年12月10日発行)
※現在は「愛と友情のボストン―車いすから起こす新しい風」として新版が発売
(藤原書店 2008年6月30日発行 1900円+税) アマゾンへのリンク

障害児がシーティングでいかに変わるかについて「運命じゃない」という著書もあります。
(藤原書店 2008年5月30日発行 1800円+税) アマゾンへのリンク
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